10月22日。それは京都にとって特別な意味をもった日。――そう、今から1212年前、京都に遷都された、都遷りのその日なのである。そんな日に、私たちは、……ものすごく困っていた。――道に迷い途方にくれ、1人は車に酔っていた。
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その前日、キラヤさん(キ)が我が家を訪れた。次の日はきものを着て出かけようと相談した。ワインを飲んだ。行き先はなかなか決まらなかった。遅くまでワインを飲みながら語り合った。時代祭は避けようと話し合った。話はすぐに脱線した。ワインを飲んだ。……そして寝るのは遅くなった。
翌朝、気合の入ったキラヤときよこ(き)の2人は早く起きた。朝食の準備をしつつ、着付けの準備にとりかかかった。しかし、なかなか思うようには進まなかった。「10時に出発しよう」と言っていたが朝食を食べ始めた時、すでに10時を過ぎていた。
何とか出発はした。飼い主(主)に車を出してもらった。目的地は北区(の山の方)にある宗蓮寺(そうれんじ)。秋明菊と石蕗(つわぶき)が見頃らしい。地図は前日に確認していた、が、持ってはいない。でも大丈夫。飼い主は周山街道に慣れている。「そうだねぇ、道はだいたいわかるし、30分ぐらいで着くんじゃないかなぁ」(主)。そう複雑ではない、はずだった。しかし気がつけば時すでに遅し。曲がるべき道は通り過ぎていた。消防署なんてなかったぞ。……迷った。携帯のナビは使い物にならない、なぜなら山は圏外である。そう、ここは山道。睡眠不足、食後すぐの出発、きものによる締め付け、山道……。さまざまな要素が複雑に絡み合い、キラヤさんは、嗚呼、車に酔ってしまった。
目指すべき方向をすっかり見失った私たちは、目に映った「北山杉資料館」に立ち寄った。京都府の木である北山杉について解説されていたり体験ができたりする施設であり、川端康成の「古都」の舞台で碑も建っている。が、それらには目もくれずに資料館の人に道を訊ねた。全く入館するそぶりもないのに、すごく親切に教えてくださった。
「こっちから行ったら、トンネルのすぐ手前の道を左に入ってください。トンネル入ったら行き過ぎです。まぁ、トンネル入っても向こう側からまた行けますけどね。そいで、トンネルからしばらくいったとこを左に入っていくんですけど…
――そこは目印か何かありますか?
「目印…山ザキか山タケか、んー、「山なんとか商店」いうとこです。そこから左に行って、もうしばらくとイヌがいっぱいいるところがありますし、
(――イヌ?! いっぱい??!!)
「そっからまた左へ上がっていったら宗蓮寺さんありますわ。今でしたら菊が見ごろですねぇ。」
――ありがとうございます。
ありがたく地図までもらい、私たちは再び走り出した。しかし、またも間違った。分岐まで戻り進む。「トンネル手前を左、トンネル手前を左……」唱えながら進み、目標の「山なんとか商店」を必死で探す。「見えた、あれだ」……と、その時!
確かにそこにはイヌがいたのであった。しかももう1匹駆け寄ってくるではないか。よし、目的地は近い。
イヌ地点から再度道を間違え、山道をしばらく進み、……進めど進めど方向を見失い自信も失い、「もう諦めよう、Uターンできるところから戻ろう」そうつぶやいたその瞬間。…目の前に見えたのは、確かに「宗蓮寺」と刻まれた文字だった。
ようやく、やっとこさ宗蓮寺に到着。そこは、まさに知る人ぞ知る、というひなびた感じの小さなお寺でした。これがまた、全く誰も知らない、というわけでもなく、タクシーの運転手さんが数名の観光客を案内しておられました。通好みのスポットなのかもしれない。寺はたくさんの可愛らしい花で以って私たちを迎えてくれました。
寺はかなり山の中に建っていて、階段もので、きもので歩くのには不向きだったかもしれない。でも、都の喧騒からはずれて静かに秋を感じられる、いいところでした。愛らしい花、秋明菊と石蕗、そして(飼い主曰く)「私好みの地蔵」(最初「私似の地蔵」かと思った)が、そこにはいたのでした。
名称:宗蓮寺(そうれんじ)
場所:北区中川北山町 JRバス「山城中川」下車徒歩10分ぐらい
拝観料:なし(お寺の建物の中には入ってないからわからないけどいらないのでは)
10月頃の見所:秋明菊、石蕗などの花
注意:場所がわかりづらい。北からでも南からでもトンネルのすぐ手前で「中川」方面へ。北(京北側)から行く場合は本文中の赤字を参考に。しっかりと地図を確認してから訪れましょう。
お奨め:せっかくなので今回道を尋ねた「北山杉資料館」へも足を延ばしてはいかが?
北山周辺は飛び出し注意の少年も北山杉でできています。色なしバージョンもあり。
見物した時間より道に迷っていた時間がはるかに長かったものの、空気のいい静かな山寺を満喫した3人。お昼時だけど、朝ごはん遅かったし食べなくていいよね、さ、次はどこに行こうか…と相談していたら「あぶり餅が食べたい」とキラヤさん。「あんた、車酔いしてたんじゃなかったのか?」という心の声が聞こえはしたものの、食欲があるのはよいことだ、ということで、一路、今宮神社へ。実は前日、未だあぶり餅を食べたことのないキラヤさんに、あぶり餅大好き夫婦がその魅力を語っていたのであった。
お上品なものが多い京菓子の中で、あぶり餅は素朴な味わいが人気(と思う)。きな粉と白味噌のタレと焦げ感が絶妙(と思う)。あぶり餅というのは、そもそもは疫病を鎮めるために行われた今宮神社の「やすらい祭」の際に食べられていたものらしい。今宮神社の参道にはあぶり餅を出すお店が2軒向かい合っている。「一和(一文字屋和助)」と「かざりや」。どちらも同じ値段で、同じ量。以前テレビで言っていたが「残念なことに2軒はとても仲がいい」そうです。ちなみに、日本最古の和菓子屋だという噂もあります。若干味に違いがあるようで、その日の気分で変わるかもしれないが私の好みは「一和」(たぶん)。香ばし感がちょっと強い(と思う)。今宮神社に向かって右側である。ちなみに、かざりやさん(神社に向かって左)の方には珍しい水琴窟があります。ま、そんなごたくは置いといて、この日もおいしくいただきました。何百年も京の人々は味比べしていたのかしら……。
いつもはあぶり餅食べてさっさと帰るのですが、観光客モードで来てることだし、ということで今宮神社にも寄りました。神社よりも餅が目的だったもので、どこがどうだったというほどもあまりないのですが、初めて「阿呆賢(あほかし)さん」を試しました。阿呆賢さんは岩です。軽く3回叩いて持ち上げるとすごく重くなり、願い事をしながら軽く3回なでさすって持ち上げて軽くなると願いが叶う、という言い伝えがあるそうです。え? 私? やるの? 願い事ないよ? 仏教徒だよ? とそんなことを言いながらきよこの阿呆賢さん体験。飼い主の助言により「肩こりが少しでもマシになりますように」とお願いすることに。ペシペシペシ、ふんっ。重っ。では、肩こり緩和の祈りを込めて、なでなでなで、軽くなりますように……、ふんっ。
こうして、ぶつぶつとつぶやきながら今宮神社を後にしたのでした。
名称:今宮神社(とあぶり餅)
場所:北区紫野今宮町
拝観料:なし
名物:阿呆賢さん 肩こりの人が痛みの緩和を求めてやるのはやめよう
あぶり餅:お店は「かざりや」と「一和」どちらも1人前500円
注意:車で行く場合は停める前に店を決めること。ちゃんと見てはるので停めたほうにしか入れません。
こうして、あぶり餅(と今宮神社)を堪能し、それから十月桜を見に平野神社へ行きました。平野神社については前回書いたのでもういいですよね。春とはうって変わって静かでした。
平野神社のあとはもうフィナーレに向かいます。家に帰って着替え、JR「嵯峨嵐山」駅までキラヤさんを見送りに行きます。きものを脱ぐと途端におなかがすくもので、わざわざ遠回りして中村屋でコロッケを買って食べました。コロッケがおやつになるっていうのは関西の文化ですよね。あつあつがうまいのよね~。おなかもココロも満たされたところで、キラヤさんを見送りました。ちなみに、見送った後で駅前で最中アイスみたいなのを食べ、再び中村屋に寄って夕飯用にメンチカツとばら売りの地卵を買って帰りました。夕飯用に買ったのに帰ってすぐ食べました。なんだか間食ばかりの1日でした。
10月22日。それは静寂を求める、でもドタバタの1日でした。でも、みんなが時代祭を見てる時にこんなのもいいかもしれないです。次は、お能を見ましょうかね、キラヤさん。着付け練習しておきましょう。