戦後まだ間もない頃。京都の北部・丹後は与謝の貧しい家に生まれ、その後西陣五番町の遊郭「夕霧楼」へと上がることになった片桐夕子。そのはかなくも美しい…そして悲しい物語と言ったらよいのだろうか。

その美しきヒロイン・片桐夕子であるが、実は井筒八ツ橋本舗の生八ツ橋「夕子」のキャラクターのモデルなのである。
ちゃんと井筒八ツ橋本舗のサイトにも「井筒の生八ッ橋 夕子の由来」というページがある。
この「夕子」が美しいかどうかは各人の判断に委ねるとして、私としては読後の「夕子」イメージとパッケージの「夕子」イラストイメージは、残念ながら一致しない。

ヒロインとはいえ、夕子の心情というのはほとんど描かれていない。
夕子の体についてはこまかく描写されているが。
なんだか捉えられないまま、読み終わった。

何も知らない初心な田舎娘のような処女性と、男心をとろかすような妖艶な娼婦の二面性。

〈やっぱり、この娘は天性の娼婦やな……〉


と夕子を水揚げした竹末甚造に言わしめている。
この道楽を知った西陣帯の織元の旦那と、吃りのある鳳閣寺の僧・櫟田正順。
二人の男が夕子の客である。

夕子(の躯)に惚れて面倒を見ようとするタアさん(竹末)。
鳳閣寺……まぁ、金閣寺のことと言って間違いないだろう、そこの青年僧で実は幼なじみであった櫟田と夕子の恋。
そんな櫟田に嫉妬さえする、大の大人のタアさん。
肺を患ってしまう夕子。
鳳閣寺に火を放つ櫟田。(金閣寺放火事件のことだろう)
失踪する夕子。
そして――。

今までは思いもしなかったが、井筒八ツ橋本舗のCMソング「夕子、夕子、どこにいる〜♪」というのが、いつになく悲しく聞こえてくるようだ。


五番町夕霧楼 (新潮文庫)