「寅年大参拝」とはいっても、寅年と思って行っただけで実際に参拝したのは丑年中でした。何年ぶりでしょう、鞍馬に行ったのは。貴船には何回か行ったのですが、鞍馬はすごく久しぶり。実は…そう、鞍馬寺には虎がいるらしいのです。それを写真に撮って年賀状に使いたい、ただそのためだけに、年末の押し迫った忙しい時に、紅葉もすっかり終わって寒々とした鞍馬山に、わざわざ電車(200円)とバス(220円)と電車(410円)を乗り継いで約2時間かけて、行って参りました。平安京の鬼門を守る、鞍馬寺へ――。

 時刻は午後3時すぎ。叡山電車終点の「鞍馬」駅を降りると、天狗たちが歓迎しています。「ようこそ天狗の町 鞍馬へ」ですって。でも、今日会いたいのはあなたじゃないの、とばかりに鞍馬寺へと向かいます。ほどなく、山門につきます。
 すると、山門前であっさり一対の阿吽の虎を見つけました。

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 さて、この虎さんたちは山門前にいるので、このまま拝観料を払わずに帰ることもできます。今から帰っても家に着くのは5時か……。でも、ここまで来て帰るのも、ある意味・逆に・ある反面、もったいない気も……。しばらく逡巡しましたが、えいやっ、とばかりに山門をくぐります。近くにはちいちゃな(3歳ぐらい?)女の子連れのお母さんたちの姿が見えます。

028c-cable  意を決して山門をくぐった私を待ち受けていたのは、心をうち砕こうとする恐ろしい試練と、ブッダを堕落へと誘うマーラさながらの誘惑の数々。何しろ、いきなり「九十九(つづら)折参道」という文字が見えるのです。と同時にケーブルカーの誘惑案内もあります。ケーブルカーがあるのにも関わらず、約1キロの山道を、「できるだけ歩け」という愛のある厳しいお言葉が。

「ああ、歩いてやるともよ、清少納言」

とは言っておりませんが、清少納言も歩いたとされる山道を歩いてみました。
 参道を少し歩くと、魔王の碑があります。これは、覚えています。前回友人と来たときに、「魔王と戦う勇者と僧侶」っぽい写真を撮りましたもの。アホです。でも、龍がいたのは気づかなかった。前はいなかったんじゃないかなぁ。2年後までに龍メインの神社・仏閣を見つけられなかったら年賀状はここにいたドラゴンになるでしょう。


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028e-yuki  途中には由岐神社があります。大きな杉のご神木があります。前に鞍馬に来たときは、何にも予備知識もなかったから素通りしたのか、はたまたホントに通っていないのか、由岐神社についての記憶がまったくありません。毎年10月22日夜、京都三大火祭である「鞍馬の火祭」の行われる神社です。ここで、ふんどし一丁の男たちが何かをするんですね。一度行ってみたい気持ちと、ここまで来る大変さと、その2つの思いが戦って、これまでは「行ってみたい気持ち」の全戦全敗です。だって、叡電でしか行けないし、逃げ道ないし、きっとものすごく混みますよ。「一度は見てみたい気持ち」が勝った人たちだけでも、ものすごい人数なのだと思われます。

 ただひたすら、九十九折参道を歩きます。前回は、あっさりとケーブルカーの誘惑に負けたような記憶もあります。負けたくもなります。山道ですよ。ひとりぽっちで歩いているんですよ。このへんで引き返そうかな……と思ったら、前述のちっちゃい子(と親)が歩いているのが見えて、ここで諦めたらかっこわるいぞと言い聞かせて登ります。

――九十九回折れるのは、山道ではなくて私の心であるのかもしれない。

そう思いました。途中に「本殿まで五町」とか何とか書いた石碑が見えます。一町は…109.09メートル(Google調べ)だそうです。嵐山の大悲閣が「二町のぼれば」と歌われているのだから、それの2.5倍……。大悲閣より勾配きついし。大悲閣はひとりじゃなかったし。
 何度も何度も、「来るんじゃなかった」「さっきのとこで引き返せばよかった」「私の目的は虎写真だろ、もういいじゃん」「体力ないのに私何しているんだろう」とうじうじしながらもかろうじて足を動かし続けました。すると、誘惑したり脅迫したり忙しい案内板は、ここに来て励まします。

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そして拝観料を払って山門をくぐったあの時から約40分後……

 ――辿り着いたのは、登り切った者だけが味わえる清冽なる空間。本殿に到着。眼下に広がるは平安京。京を怨霊から守るために、千年をはるかに超えるいにしえより鞍馬の寺は、鞍馬の山は、ここに確かにあったのだ。
 そして、西日に照らされ輝くのは、阿吽の虎。そう、虎もここに、しっかりといたのだ。歩いたのは間違いではなかった。雄々しくも美しい虎である。

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 しばらく、私はその空気を味わった。10分ほど、じっとしていただろうか。そして悩んだあげく、奥の院へ行くのは断念して、そこから山を下りた。昔々、鞍馬から奥の院まで行き、貴船まで歩いたこともあったような気がしてきた。逆だったかな? どっちにしろ、今より十歳以上若い頃の話だ。今はムリムリぜーったいムリ。帰りは15分だから歩いて帰れと商売気のないケーブルカーの看板を目にし、歩いて帰った。

 鞍馬の駅まで戻り、電車の時間を確認。せっかくなので(というか電車代の小銭がなかったので)電車が来るまでの間に、鞍馬の名物である「木の芽煮」「山椒しぐれ」「牛若餅」などを購入。自動販売機で温かいお茶を買い、大阪のおばちゃんが着ているような虎柄のクッションの敷いてあるベンチに座り、一服。こうして、鞍馬への参拝をなんとか無事に終えました。

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 さて、みなさんも、寅年に鞍馬の虎に会いに行きませんか?

名称:鞍馬寺
場所:京都市左京区鞍馬本町
アクセス:叡山電鉄「鞍馬」駅下車
拝観料:200円(ケーブルカー利用の場合は片道100円)
服装:山道を登るので、歩きやすい服装で・靴で。リュックなど、両手を空けられる方がよい。
注意:時間の余裕をもって挑みましょう。たぶん、冬はやめといた方がいい?
お土産:木の芽煮(など佃煮系)、牛若餅・山椒餅(など菓子系)、天狗の面(など民具系)…と多様
温泉:近くに「くらま温泉」あり。山登りで疲れた体を癒してくれることでしょう。
(2010/1/12)