その日は、絶好の雨模様だった。

 雨、そして曇り空の似合う風景、というのは存在します。蓮の寺として有名な、ここ「法金剛院」もそう。例年より梅雨明けの遅かったこの夏、休みの日としてはめずらしくちょっとだけ早起きをし、蓮見へと行きました。蓮の見頃に合わせて「観蓮会(かんれんえ)」が行われており、通常より早く(朝7時)に開門されていました。とはいえ、そんなに早くは行っていませんが。

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 「蓮 開花」と書かれた門をくぐると、浄土もかくやとばかりに、たくさんの蓮が境内に咲いておりました。まだお浄土には行ったことありませんが。日本始め、世界各地の蓮が集められています。私が知らなかっただけで、実はかなり有名なのか、多くの人が蓮を見に訪れていました。アマチュアかプロかはわかりませんが、たいそうなカメラを抱えた人もたくさんおられました。惜しむらくは、みなさんがきれいな蓮を前にカメラを構えて動かれないので、私自身がなかなか写真が撮れなかったこと、そして落ち着いて蓮をみられなかったことでしょうか。

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017c-hasu-last  それにしても、蓮という花には何か不思議な魅力が感じられました。仏さまのお花だからでしょうか。柔らかく、それでいて気高く、……母性のようなものが感じられました。しっとりとした大人の女性が似合います。残念ながら、私はまだまだです。周りのうるさいおばさま達の団体にイライラしっぱなしでしたから。でも、静かに見た方がいいと思いますよ。静かに見るのが似合うお花、そしてお寺でしたから。
 

017d-asiato  さすが「浄土にいちばんちかい寺(たった今命名)、仏さまの足跡である「佛足石」がありました。そして生きた蓮を見た後は、作品の蓮。訪れた人が撮影した写真を飾ってあります。さすが、上手いもんだと感心しつつ眺めます。
 そして、奥へ進むと――。そこには思わず手を合わせたくなる、大きな阿弥陀さまがいらっしゃいました。本当にそこには、不思議な力があるようでした。心に届く仏さまと申しましょうか。本堂に足を踏み入れた人は、息を呑み、跪き、手を合わせ……。何とも厳かな、でも穏やかな雰囲気が漂っておりました。
 写真だけ見て奥まで来なかった人がたくさんおられましたが、もったいなかったなぁ。石清水までもうでけり、ですよ(?)

017e-amayadori  さて、雨がポツポツと落ちてきたので帰りましょう。もうちょっとゆっくり見ていたかったけど。
名称:法金剛院(ホーコンゴーインというのは言いにくい)
通称:蓮の寺
場所:右京区花園扇野町(バス停すぐ) JR「花園」駅からも近く
拝観料:一般400円
行事:観蓮会(かんれんえ):開門時間が早くなります
他の花:枝垂れ桜、紫陽花、紅葉、白い彼岸花…等々四季折々に様々な花
うんちく:様々な花が植えてあるからこの一帯を「花園」という説もある。
     関西花の寺25カ所の13番
助言:静かに見ましょう
参考資料:川井戒本・水野克比古「(京の古寺から9)法金剛院」(1995年、淡交社)
 
(2006/8/1)

 3年ぶりに訪れた法金剛院。この、「浄土にいちばん近い寺」には、秋になると彼岸花が咲きます。彼岸=あっちの世界=つまり浄土、ということでよろしいでしょうか。

 門をくぐると、さっそく真っ赤な彼岸花がやわらかな秋の陽ざしを受けています。

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 蓮の頃の大にぎわいとはうってかわって、ひっそりと静かなたたずまいの寺。先客は、大きなカメラを持った男性がひとりだけ。その方が出られた後は、独り占めでした。
 私は、ただ彼岸花が見たかっただけではありません。ただ見るだけならその辺りにも咲いているのだから。見たかったのは、噂に聞く、白い彼岸花――。

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 拝観料を払い、庭へと入る。と、すぐに目当ての白い彼岸花が。あざやかな朱色の鬼灯(ほおずき)と並んで白色の彼岸花が美しく映えます。ほおずきには、なんだか懐かしさがこみあげてきます。子どもの頃、お寺の境内墓地(つまりは自分ちの庭でもあるが)で遊んでいた記憶に結びつく。あと、おばあちゃんの…お浄土へ行ったおばあちゃんの優しい顔が思い浮かぶ……。なぜだろう。ほおずきでの遊び方をおばあちゃんが教えてくれたんだったっけ。よく思い出せないけれど、ほおずきにはおばあちゃんのイメージがあります。

 さて、花の咲いていない蓮の葉が生い茂る、その庭園の中ほどに進みます。不思議と、中に赤い彼岸花は見あたらず、白い彼岸花だけがところどころに咲いています。

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 赤い彼岸花には、のどかな田園のイメージもあるけれど、どこか狂気を帯びたかのような、あるいはの色のような、はたまたのような……そんな印象も。この花の持つというゆえのイメージかもしれませんが。一方、この日の光を浴びた白い彼岸花には、静かで、気高く、それでいて柔らかい……まさに仏さまのような印象が。
 やはり、ここは「浄土にいちばん近い寺」なのかもしれない――。
(2009/10/5追記)